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 地域資源紹介


東京のくさや

■指定されている場所:大島町、新島村、八丈町、利島村、神津島村、御蔵島村、青ヶ島村

くさやは、ムロアジやトビウオなどの新鮮な魚を、「くさや液」という秘伝の発酵液に漬けたのちに乾燥させた、伊豆諸島特産の干物です。
くさやといえば、その臭いが特徴です。その臭いによって好き嫌いが分かれるとはいえ、慣れて好んで食べる人にとっては、特に食べているときは、あまり臭いは気にならなくなると言われています。くさやは決して腐っているわけではなく、むしろ普通の干物よりもくさやの方が倍以上日持ちがよいという実験結果が出ています。その味は、普通の干物の旨味が増したようだと表現され、かめばかむほど、その旨味が出てきます。焼酎や日本酒の肴(さかな)としても、またご飯のおかずとしても美味な一品です。

くさやに用いられる魚は、伊豆諸島近海で獲れるトビウオ、ムロアジ、アオムロ(標準和名はクサヤモロ)などが使われています。脂の少ない魚が向くとされています。自宅で作るくさやには、時期が過ぎて脂があまり乗っていないサンマや、サメなどの他の魚も用いられます。
「くさや」という名前は明治時代以降のもので、それ以前は「塩汁干(しょっちるぼし)」と呼ばれていました。秋田県の「塩汁(しょっつる)」と似た言葉の由来です。
くさやの製造法は、まず材料となる魚を開き内臓を取り除き、二枚に開きます(ですから、イカの内臓を利用して作る「塩辛」とは製法が異なります)。くさや汁におよそ10〜20時間漬け込んだ後に、水に漬けて塩分やくさや汁を抜きます。くさや汁や水に漬ける時間は島により、魚の種類により、気温により、そして工場により異なります。その後、従来の方法では天日で乾かしますが、近年では乾燥機を用いてゆっくり乾燥させます。天日で干したものはカチカチの硬さになりますが、乾燥機を利用したものは柔らかい仕上がりになり、むしろ現代人の嗜好に合っているといえます。

くさやがいつ頃から造られるようになったかは明確には分かっていませんが、江戸時代中期以降には食されていたと考えられています。伊豆諸島で誕生したいきさつには、土地の食糧事情が大きく関係しています。伊豆諸島では食糧は漁業によって大きく支えられていましたが、漁獲高は季節により、またその年により大きく変化しました。さらに魚は動物の肉と比べて腐敗の進行が早いために、捕まえた魚は素早く処理して貯蔵し、漁の少ない時に備える必要がありました。さらに伊豆諸島では、江戸時代初期は年貢は塩で納めており、その取り立ては厳しかったために、自ら製塩をしていたにも関わらず島民にとって塩は大変貴重品でした。
そうした状況のため、干物にする前に、魚を塩水に漬け込みますが、塩がもったいなかったために一度使った塩水を捨てず、何度も同じ塩水を使いつづけ、やがて、魚の身から浸み出した成分が微生物の作用によって発酵が進んで、塩水は独特の臭いをもつようになります。その液に漬けた干物が、旨味も増す上に長期保存にも向くことに気づき、代々その「くさや液」が引き継がれるようになったのではないかと推測されています。魚を長期保存する加工食品には、干物や塩漬け、佃煮などがありますが、こうして、伊豆諸島では「くさや」という方法が発達しました。

今では、伊豆諸島の各島にはくさや工場があり、くさや液の塩分濃度やその中にいる細菌の種類や比率も工場ごとに異なり、それぞれの味のくさやが作られていますが、かつては個々の家でも作られていました。明治時代の新島では、嫁入りの際に家のくさや汁を娘に持たせる風習があったと伝えられています。
くさや工場がもっとも心を配るのは、くさや液の保存・手入れです。くさや液は、とろみのある茶色味を帯びた液体で、その中には1ml中に1千〜1億個という高い濃度で各種の細菌が生きています。同じくさや汁を連続して使うと良いくさやができにくいため、その液を休ませる必要がありますが、これは連続使用すると有用な菌の比率が減少するためです。くさや液のpHは、中性〜ややアルカリ性で全島で共通ですが、食塩濃度は、八丈島のくさや汁では約8〜11%であるのに対し、他の島では、約3〜5%と低いという違いがあります。そのため、八丈島ではくさや液に漬けた魚を、他の島よりも長く水に漬けて塩分を抜くので、くさやの臭いも少ないという傾向があります。
くさや液を保存するために、くさや工場では地下の貯蔵タンクに一定温度で保存し、必要に応じて地上にポンプで汲み上げて使用しています。くさや液の菌は好気性細菌(酸素を必要とする細菌)が多いため、貯蔵タンク内に酸素を補給する必要もあります。しばらく使わなかったくさや液には、新しい魚の切り身を入れて栄養を補給する必要もあります。塩分濃度を一定に保つために塩を加えて調整しなければなりません。こうして丁寧に管理されたくさや液の中には200年以上前から引き続き手入れ・保存されているものもあります。
くさや液の中にいる細菌の中で多い種類のCorynebacterium kusayaコリネバクテリウム・クサヤ(通称くさや菌)は、抗菌物質を作り出していて、腐敗細菌の増殖を防いでいると言われてます。指に傷ができた時に、くさや液を塗ると治りが早いという言い伝えがあるのも、この殺菌作用によるものでしょう。くさや液の中には他にも種々の菌があり、それぞれが、味や臭いに大いに関係しています。
微生物の存在すらまったく理解していなかった昔の人々が、経験的に、有用な細菌を生かし続けられるような仕方でくさや液を管理し続けてきたのは驚きです。


くさやは、伊豆諸島の人々の食生活を支える重要な方法でした。ところが、伊豆諸島の若い世代ではくさや離れが進み、くさや工場も後継者不足に悩まされています。くさやは以前は島内でほとんどが消費されてきましたが、最近ではネット通販が盛んになったため、島外でも直接工場から購入することもできるようになりました。また、すでに焼いたくさやを真空パックや瓶詰にしたものが売られており、伊豆諸島外でも、くさやがより身近なものになっています。

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